2014年11月アーカイブ

今は、フルタイムの仕事に就き、車のドライブも習いました。

外に出る回数が増え、人との新しい出会いが生まれるようになりました。

エルトンは私にとって最もすばらしい友だちなのです。

ヘイの願いは、ロビンスさんにも引き継がれ、彼女は協会で広報担当者として働いています。

よき理解者と結婚もしました。

取材の二年後、イギリスのクラフツ展で出会ったとき、ロビンスさんは杖の必要さえなくなっていました。

エルトンはミルクびんや新聞だけでなく、んできたのです。

高橋ナツコ
エルトンにはロビンスさんの身体の不自由がわかるらしく、彼女のようすを見て心配そうな顔をしたり、言われなくても手伝おうとするのです。

そして、エルトンが持ってきた物を受け取るために手を伸ばしたり、用事をいいつけるために声を出したりといった単純な動作が、ロビンスさんのリハビリにもなっていきました。

ひとつひとつの動作に時間のかかるロビンスさんにエルトンはいやな顔ひとつしません。

「早く早く」とせかすこともありません。

少しずつ、本当に少しずつ、ロビンスさんは、自分なりに不自由な身体を動かすようになっていきました。

「エルトンのおかげで私はまったく変わってしまいました。

高橋ナツコ
周囲から私は二度と働けない身体で、このままだと植物人間のようになってしまうとまで言われていたのです。

エルトンに出会えたのは偶然でした。

盲導犬協会では、ガイド犬に不向きな個体をコンパニオン・アニマルとして一般に売っています。

ロビンスさんは、孤独を癒すために犬を求めて応募しました。

しかし、ロビンスさんの障害を知った盲導犬協会は介護犬をすすめたのです。

そして、介護犬協会で一九番目に訓練されたエルトンが彼女の家にやってくることになりました。

エルトンは、日常的な仕事をなんでもよろこんでします。

彼女にほめられることがうれしくてしかたありません。

高橋ナツコ
奇跡というほかありません。

ロビンスさんは、八年前突然半身不随になりました。

まだ一四歳だったロビンスさんの頭に落下してきたコンクリートの塊は、彼女の頭蓋骨を破損し、脊髄に半身不随になるほどのダメージを与えました。

治療にあたった医師が、一命を取りとめたのは奇跡だといったほど、ひどいけがでした。

医師は、なんとか彼女を励まそうとしましたが、半身が動かなくなった彼女にとって、どんな慰めも、今までの夢や興味もすべて無意味なものになってしまったのです。

「三年前にエルトン(介護犬)に会うまでの日々は、口では言い表せないほど私にとって残酷なものでした。

誰とも話もせず、何もせずに、一日中テレビだけを観ている生活。

高橋ナツコ
「イギリスに住むようになってから犬が好きになった」

という日本人が多いようです。

日本の愛犬家には不本意な話かもしれませんが、道で出会うイギリスの犬たちはフレンドリーで、とりわけお行儀がいいのです。

イギリスの犬の権威者の多くが、トレーニング・ブックにまず記述するのは「彼らは生まれながらの『人間のベストフレンド』ではなく、狼の血を引く動物なのです。

それが、教育によって人間社会に適するように育てられるのです」ということです。

新しい教授法を唱えるイギリスのドッグ・トレーナー、カティ・パットモーアも、「子犬は人間の家に連れてこられたとき、今までいた母犬と兄弟犬の群れから、他の群れに移されたと思うだけで、人間と犬とのちがいに気づいているわけではない」と、述べています。

高橋ナツコ
犬に好きなおもちゃを与えるのもこのときです。

コ度でもしかったり、体罰を加えたら、彼らは訓練に興味をなくしてしまいます。

教えたとおりにできたら(よくやった)と、なでて、ほめて、遊んでやる。

すると、また次のことをよろこんでどんどん修得していくのです。

巡査部長のジョン・ストック氏が教えてくれました。

イギリスの警察犬は、交配から出産まで、各地域の学校内で管理されます。

彼らは、生後五週間目で母犬から離され、八週問目から将来自分のハンドラーとなる警察官の家庭にあずけられます。

その間、「よいこと」、「だめなこと」、「おすわり」、「待て」といった基礎も身につけますが、これらはすべて、幼児に語りかけるようにやさしい語調で犬たちに教えられます。

警察犬にとって最も大事なのは、あたたかい家庭で愛情をいっぱい受け、幸福な幼犬時代をすごすことなのです。

高橋ナツコ
実際の捜査では、ここで建物内の人を避難させます。

あとは、爆弾処理班の仕事となります。

私も、彼らのうしろについて建物から走り出ました。

犬の口元を見ると、くわえていたのは犬用のピンクのゴムのおもちゃでした。

「彼にとっては、爆弾捜査は大好きな飼い主とのいつものゲームの一環でしかないのです」。

ハンドラーたちのポケットには、それぞれの捜査犬用のトイが必ず入れられています。

それは、ほかの麻薬捜査犬や警察犬でも同じでした。

訓練では、体罰はもちろん、絶対に怒ったり、どなったりはしません。

失敗するうちは、はげましながら同じ訓練をくり返し、できたときは思いっきりほめます。

高橋ナツコ

白と黒のしっぽ・・・高橋ナツコ

白と黒のしっぽは、人間たちの緊迫した表情とは裏腹にピンと立って楽しそうに揺れています。

任務についてから三年目になるこの捜査犬は、爆発物発見の功績をあげた優秀犬です。

小さな背中が急に、部屋の中で忙しく動き始めました。

八番目の部屋です。

犬の嗅覚は奥のタンスにかくされたわずかな爆薬の臭いを嗅ぎ分けました。

ボーダーコリーは臭いの元を確認すると、身を伏せてタンスに向かって吠え始めます。

爆弾を見つけた合図です。

ハンドラーは、ポケットから何かを出し、ドアのところで犬を呼びました。

犬はよろこんでそれをくわえ、すぐに、ハンドラーと共に部屋から走り出します。

高橋ナツコ
訓練用の爆弾の包みは八番目の部屋のタンスの中にかくしてあります。

爆弾捜査犬は、ひとつひとつの部屋を嗅ぎまわりますが、入り口付近で判断できるのか、該当しない部屋ではさっとひきあげて次に移ります。

その間、ハンドラーは犬に声をかけ続けるのです。

「実際の捜査でも、捜査犬のうしろからこうやって、ハンドラーがはげましているんです」。

説明してくれたのは、爆弾捜査犬の訓練チーフ、デビッド・フユーラー氏です。

先に見学した図書館には、1983年にクリスマス・ボンブで死んだシェパードのクイニーと、その時に両足を失ったハンドラーの元気なころの写真が飾られています。

ハンドラーと捜査犬は、常に修羅場をくぐりぬける同胞なのです。

高橋ナツコ